2008/06/02 (Mon) 更新停滞ー。
2008/05/30 (Fri) 只今神様音信不通。
2008/05/30 (Fri) 飛び立ちたい鴉。


トマス・モアのユートピアも、誰かが名づけたディストピアも、
それは単なる管理社会。





私の知っている世界は、この島国の中の小さな世界。
ネッワーク以上に情報管理をしている守城家
各国でもその実力は五本の指に入る経済界管理の時ヶ原家
お飾りじゃなく、島国の中心である天皇の夜中家
あとは政治の世界の大部分を制する者やマフィアやテロリスト集団。自衛隊なんて軽い存在じゃない軍。
最も、情報管理を行っていた釈迦如来家を潰し、その座を守城に譲った私が知っているのは、この島国世界のほんの触り程度の知識。
…例えばこの”日本”という国が別の形で存在するとしたら、
情報はそこいらに充満し
経済界なんて誰の手でも左右され
大した権力も持たない飾りがあって
政治は誰の目からも見放され
マフィアやテロリストはテレビの世界で
軍なんて重い存在じゃない自衛隊があって。
そんな世界があるとしたら、そこはユートピアですか?それとも、ディストピア?
…あんまり、変わりないかもしれませんね。

「…暇…」

天上が遠く、床が冷たい。読み終わったSF小説を床に転がして、私は深くため息を付いた。
完全なる管理社会の上に成り立ったユートピアという名前のディストピア。イコールで結ばれたこの、存在しない場所というものに何故そうも恋焦がれるのか。
私には、全く理解が出来ない。
故に、今読み終えた小説は私にとっては至極つまらないものだと認定された。とりあえず、山積みにされている本の一角に、無造作に置く。
守城に借りた本の山は、今ので半分ぐらい読み終えただろうか。半分を読み終わるのに1週間を使ったから、あと残り1週間ぐらいは読書週間が続く。
そういえば今何時だろうと時計を見て、それから窓の外を見る為に立ち上がる。
2時というのは果たして午前か午後か。午前でありますようにという淡い期待を抱きながらカーテンを開くと、その向こうはどっぷりとした闇に漬かっていた。
…あーあ…明日出かけるのに…
実際のところは今日か。なんて自分に突っ込みを入れつつ、洗面所に行き顔を洗う。
さて、と。時間も丁度良い頃合だからそろそろ向かわなければ。
春の夜は寒く、私はコートを羽織って外へ出る。

「さむっ…」

顔を洗ったときに髪を濡らした水滴が、外気にさらされて冷たくなり、頬に張り付いた。それを払いながらエレベーターに乗り込んで、Rボタンを押して、扉が閉まるのを待つ。
ちょっとした浮遊感。気持ち悪い感じ。胃が、浮かぶような。肺が、止まるような。
しばらくしてエレベーターの扉が開くと、そこに見えるのは偽物の輝きに満ちた下界の星。空はあまりにも汚れていて星は歪む。
歩き出し、真っ直ぐフェンスに向かってゆく。
1メートルほどの、背丈の低いフェンス。乗り越えるのは容易く、私はそのままそれを乗り越える。
急に風が強くなった気がした。
いや、私の体が震えて揺れているのかもしれない。

「……あぁ、案外…怖いものですね…」

フェンスに指を絡ませ、体を傾ける。
手を離せば、まっさかさま。

「よくまぁ、こんな所から飛びたちましたねぇ…鴉飛…」

鴉が飛ぶように美しく舞う。
今でも脳裏に焼きつく、赤い羽根。
彼女のたどり着いた場所は、トマス・モアが描いたユートピアでも誰かが名づけたディストピアでもない、自由な場所だったのだろうか。
小さな島国社会の、狂った管理社会とは違う…桃源郷?天国?

「…馬鹿らしい」

そんなもの、あるわけ無い。
飛び立ったその向こうにあるものは、地面という冷たい現実だけ。
赤い羽根は、所詮空を飛んだって自由に届くわけがなかった。

「釈迦如来、落ちるよ?」

声がして、私は斜めに倒していた体を起し、エレベーターの方へと向いた。月明りの影で人影は確認できなかったが、そこに彼がいる事はなんとなくわかる。
私はフェンスを再び乗り越えて、内側へと戻った。
あぁ、やっぱり体が震えていたのだと、少し震えの残る両腕を軽く抱く。

「遅刻です」
「そう?」

彼の声音からは何も読み取ることが出来ず、私はそのまま黙る。すると、闇の中から彼の姿が現れた。無表情のままで、その手にあるのは数枚の書類。
私は影に近寄り、その手から書類を受け取った。そして、目を通す。

「釈迦如来」
「何ですか?」
「情報、結構調べたけれどほぼ綺麗。っていうか、綺麗過ぎるね。それに、守城にも圧力がかかってるみたいで、もう調べるのはやめな。だってさ、忠告というよりも寧ろ挑戦状って感じだね」
「ふん……守城がそんなことを…」

かつて、私を慕ってくれた彼女の姿を思い出した。
あの時の怖いもの知らずだった彼女が、大人になったのだろうか。
それとも、怖いもの知らずなあの彼女さえも屈する程の圧力なのか。
…あぁ、ならばきっと彼女が屈するほどの圧力だったように思う。彼女の怖いもの知らずな一面が消えてしまうのは、嬉しくない。

「かなりの圧力でしょうね」
「かもね…でも、引くつもりは無いよ?俺。釈迦如来だって引けないでしょ?」

まさか、彼が此処まで乗ってくるとは思わなかった私は、驚いて彼の方を見る。しかし、表情の読みにくい彼からは、何も伝わってこない。
…まぁ、いい。手伝ってくれると言うのならば私は、その手を拒みはしない。
犬飼 音呼。
彼がなんの目的で私の傍にいるのか。
それを知ることが出来なければ、私の心の平穏が保てない。
だから、彼の言葉に頷く。
それから、ふと明日行こうと思っている場所を伝えるべきだと思い至った。もし、明日何か収穫があれば、彼の仕事はそこで終えることが出来るから。

「…私、明日にでも朔詩に会いに行くつもりです」
「朔詩に?」
「朔詩が、別の誰かに話してたとも限りませんし」

かつて、友人の振りをして私の元に居た朔詩のように彼が、
情報世界惨殺の犯人である私を、恨んでいたとするならば。
それならば話は単純で、きっとまた朔詩のように友人の振りをして裏切るというのだろう。
…でも、どうか。そうじゃない事を…と祈っている自分もいる。

「ん、いってら」
「では、貴方は引き続き調査を…お願いします」

そう言って、時の横をすり抜けて闇にまぎれたエスカレーターに向かう。
もう、傷つきたくないと、近寄る人を疑う自分が嫌で。それでも誰かが寄ることが怖くて。
だけど、全部切り離せなくて。
きっと、私も時のように

鴉飛のような、まひるのような、
真っ赤な支配を探している。





「咲花ちゃん」
「ちゃんは要らない。なんです?」
「世界がさぁ、狭いんだけどどうすれば良いかしら?」
「…は?」
「だから、狭いの。ユートピアやディストピア並みに、ね」
「管理社会が嫌いだと?そんなに管理されてるように思えませんけれど」
「そう?私は息苦しくてたまらないわ。…だから飛びたいのよね、鴉のように」
「だから、その偽名ですか?」
「そうね。…そうかも」
「あーあ。飛びたいなー」

そんな会話が、脳裏を過ぎった。










* * * * *

管理された生活。
息苦しい鳥籠。
真っ赤な羽根を広げたって
私の飛び立てる空が無かった。
必死に逃げて
ようやく飛び立てて

飛び立ちきれなくて墜落。

だからこんな惨めな私を
好きと言って欲しくなかった。

だから次は、
綺麗に羽ばたいてみたの。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学


という訳で、本日から更新がすっごい停滞します。1ヶ月に1回とかになるかも?いや、予定は未定ですが。

自宅にPCが無いのはまぁ、ブログの説明欄にも書いてある事なのですが、
じゃぁ何処から更新していたかって、実は会社…(ぇ
というのは本当で(本当かよ

じゃぁ何故もう更新が出来ないかって、あまりにもこの会社が不信すぎて1ヶ月前に「辞めます」宣言していたとか(笑
そんな訳で、今日で退社。

しばらくパソコン弄る生活から離れるし、いつパソコンを購入するかも分からないので、停滞。
FC2さんがこのブログはじゃまだーっ。
って消さない限り消しませんし、戻ってくる気まんまんです。

また、いつか戻ってくるまで、あでぃおす☆(とかいって1週間後ひょこっと更新してたら笑ってください/何)

生まれたときから俺の神様は音信不通。
ちょっと、もしもし?
人生で一度きりでも良いから、
神頼みを聞いてくれよ。





今日も昨日と同じく天気は曇り。雨が降るんだか降らないんだか微妙な感じは好きじゃない。
降るなら降れば良いし、晴れるなら晴れてくれって思う。
そんな事を思いながらの大学からの帰り道、前方から聞き覚えの有る声がしたから、思わず体が反射的に右の路地に入り込んだ。
…んん?あれ?
何で路地に入り込んでいるんだろうね?
…多分こういうのを、拒絶反応というのかな?
ともかく、耳を澄ます。あの声が聞こえなくなるまで、この細い路地で身を小さくしていれば、相手が勝手に通り過ぎるんじゃないだろうかって。
あぁもう、俺ってダサい。

「そんなところで草むしり?」
「それとも蟻の巣でも掘ってる?」
「……時さん、に、柏木……」

しゃがみこんで背を向けていたのに、後ろから声がした。振り向かなきゃ絶対にこのまま蹴り倒されると思って後ろを振り向けば、路地裏を覗き込んでる二人組み。
あぁもう、酷いじゃないか神様。また俺の声が届かなかったというんだね?
俺の携帯はちゃーんと三本立ってるのに、神様、携帯電話よりも使えないよ?あんた。

「いや、うん…自分の人生を探してた」
「へぇ?くだらないね」

…ちょっと哲学的発言したら、下らないって言われた。あぁほんとう、このおっさんマジムカつくんですけど。殴って良い?おーけぃ?
そんな事を思っていると、目の前が暗くなる。
…暗くなる?

げしっ。

あーそーですか。俺が振り向いてるとか関係無しに蹴り飛ばすのが時さんって言う人でしたよねー。そうですよねー。
…走って逃げればよかったなぁ…
そう思ったけど、それは後の祭り。
俺の体はしっかりと、顔を蹴り飛ばされて無様に地面に突っ伏した。





「釈迦如来ーお土産」
「…馬鹿じゃないんですか?」

気が付くと柏木に担がれていて、時さんが俺のバック持っていた。…後で財布の中身ちゃんとチェックしないと…とか思ってると、その二人が連れてきたのはどうやら釈迦如来の家らしく、俺の見えない位置から釈迦如来の声が聞こえる。
…あぁもう。何でこんなダサいところ見られなきゃなんないのさ…

「…っていうか、降ろして…」
「あ、起きたんだ」
「うん、だから降ろして…」

二度の訴えは却下されて、降ろしてくれる気配が無い。
無闇に暴れると五月蝿いって釈迦如来に怒られるだろうから、八方塞。ほんと、どうしてくれようかなぁ、こいつら…

「で、結局時は何をしに来たんでしたっけ?」

をぉ、釈迦如来が見事に柏木の存在スルー。
流石、時さんが仲が悪いランキング1位だと言わしめるだけのことは有る。

「おーい。俺のことはシカトか?んん?」
「全く、用が無いなら無いでも良いですけれど、時は」
「つまり俺は用が無いなら来るなという事か?」
「あぁ、時。珈琲でも…うわぁぁっ?!」

ひょい。
…そんな効果音聞こえなかったけどね?俺が見た感じ、そんな風に釈迦如来が俺と同じ目に遭った。つまり、柏木に担がれてんの、俺の反対側で。
そんな様子を見て、時さんは笑うだけ。あもう、この人達暇なんだな?!良い迷惑だ畜生…

「お、降ろしなさい!!」
「やぁ、大人をシカトするなんて社会の常識ってものがなって無いと思ってお仕置き?」
「ふざけるな!」
「って言うか俺関係ないよなぁっ?!降ろしてよ!」
「えー。音呼はー。ついで?」
「ついでとか更に酷いっ!!」

此処まで持ってきた挙句、ついでかよっ!
もっと有効活用したボケをしろ!
……いやいや、違った。何考えてるんだ俺っ!しっかりしろーっ

「あぁもぅっ…だから私は貴方が心底嫌いなんですよ、柏木っ!!この、親父面っ!不精ヒゲっ!加齢臭っ!」
「時、俺臭い?」
「別に」
「釈迦如来、自分が臭いんじゃない?うわー。不潔ぅー」

…あーあ、釈迦如来の額に怒りマークが5個ぐらい見えそう。マジで怖いんだけど本当にそろそろ降ろしてくれくれないかなぁー…
っていうか、頭に血が上ってぐらぐらするんスけど。

「こ、のっ……ばかぁぁぁぁぁっ!!!!」
「っ、オイ、ちょっ、馬鹿はどっち…っ…」

怒りボルテージまっくす。
ヒクヒクと顔を引きつらせていた釈迦如来が、柏木の肩の上で暴れだした。人間を二人も担いでいる柏木だから、流石に急に暴れられて支えて居られなかったらしく、体がふらついた。
…え、ちょっと待って。
俺を担いだまま倒れないでよっ?!
釈迦如来、暴れ…暴れないでーーーっ!!!

「うぉぁっ?!」
「ぎゃーっ!」
「うわっ?!」

どっしーん。
って、地面が揺れた。





目の前で、大人三人が倒れるところを目撃した俺は、とりあえず犬飼に止めを刺すために
…違う違う、とりあえず意識確認の為にまずは犬飼のでこを思いっきり踏みつけてみた。

「……時さん」
「うん?」
「痛い」
「そうだねぇ」
「……どけてよ?!」

怒られたからどけてみた。見事に靴の痕がでこについている事は、黙っておこう。っていうかね、犬飼君。君、危なかったねぇ。
本当、まるで神様が君を助けたみたいだよ?

「凄いねー。あと2センチ?で、刺さってたじゃん」
「…?………うぉっ、あぶなっ!何これ間一髪ギリギリセーフ?!」

横を見てごらん、って合図してあげると、それを見た犬飼はびくっと体を震わせてから慌てて体を起こした。そんな彼が寝ていた場所の横にあったのは、レンガ。
…うん、あと少しだったのに惜しいね。

「いやいやいや、時さん、笑い事じゃないからっ!」

失礼。笑ってたかな?
ともかく、悪運が強いことだけは分かったよ。

「ぅ…ん……はっ!ね、音呼!大丈夫ですかっ?!」

そんな俺たちの会話が五月蝿かったのか、釈迦如来が目を覚ましてこっちに寄ってきた。無論、柏木を踏みつけるのは忘れていない。流石釈迦如来だね。きっと踏み絵とかの時代に生まれていたら、釈迦如来なら率先して踏んでいただろう。…ん?何か違う?まぁいいや。
踏まれた柏木も踏まれた痛みでようやく目を覚ましたらしい。起き上がってしばらくボーっとしていたが、音呼の心配をしている釈迦如来を見て、口元をヒクリと振るわせた。そしてそれから音も無く立ち上がり、釈迦如来の襟首を掴んだかと思ったら、頭に頭突きを食らわせた。
あーあ。いたそう。

「あー…許そう」
「許そうって何ですか!いきなり頭突きとか酷くないですか?!」
「いきなり暴れたお前が悪いんだよ?」

どっちも悪いと思ったけど、黙っとく。それから、さっきのレンガを拾い上げた。
それから、

「えい」

軽く音呼の背中をそれで殴っておいた。





…え、ちょっとまって。
神様?あれで俺の頼みを聞いたことにするとか、そういう事言わないよね?!
って言うか、俺頼んでないよ?いや、そこで死んでても困るけどっ!
ちょっと、神様聞いてる?!聞いてます?!
俺の望み、もっとちゃんと別のことを聞いてくださいっ!!


そうやって今日も
神様は音信不通。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学



同じマンションに住む人間が、何処からか人間を拾って来ました。
真っ赤なワンピースを身に包んだ彼女は、私を見て

「うわ、何その服っ」

と、楽しそうに笑いました。
思わず殴ってしまったのは、今ちょっと反省しています。





「な、咲花ちゃん」
「苗字で呼んでください。ちゃんは要りません。…なんですか?」

足にグルグルと包帯を巻く動きを止めて上を見上げると、真っ黒で艶やかな長い髪をうっとおしげに払いながら、鴉飛がにまにまとした笑みを向けてきた。
嫌な予感しかしなかったが、とりあえず笑うだけの彼女から視線を外し、再び包帯を足に巻いてゆく。
骨折していた足は始めて見たときよりも腫れが引いていて良くなってきたが、それでもまだ一人で歩けるほど治っては無い。
…というか、この人は痛みを感じないのだろうか。始めてあったときに思ったのだが、普通アレだけの怪我をしていたら痛みが激しくて喋るどころじゃなかっただろうに、ニコニコ笑いながら私に悪態つくぐらいの元気はあった。
全く、思い出しただけでも、あの一言はムカつく。

「私、外行きたいなぁー」
「無理です、諦めなさい」
「そんなぁ、先生っ!患者の最期の願いをかなえて!」
「縁起でもない。骨折以外は貴方ピンピンしてるんですから大人しくなさい」

五月蝿いから、少し強めに包帯を巻きつけたが、黙る様子は一向に無く、えぇー。とか、ひどぉーい。だとか、ぶつくさ文句を言い始めた。全く、患者だっていう意識が無いのだろうかと思いながら、最後まで巻きつけた包帯を留める。
ふと、その腕をつかまれて上を向くと、いつの間にか私の医療キットから持ち出したのか、その手には注射器が握られていた。
…怖っ

「ナース服着て、特別にお医者さんごっこしてあげるっ」
「そんな趣味はありませんっ!!」
「きゃぁー、先生がご乱心だわー、あぁ、患者に対してなんてことをーたすけてー」
「棒読み?!っていうか、何もしてないじゃないですか!あぁもう、返しなさいっ!」

この人に注射器を持たせたままというのはあまりにも怖くて、慌てて注射器を奪い返そうと詰め寄ると、色気の全く感じられない声で鴉飛が小さく叫んだ。ため息をつきながらも、私から注射器を奪われないようにと暴れる彼女の上に被さり、注射器を奪い取ろうとする。
…しかし案外、うまくいかないもので。

「あはは、咲花ちゃんこっわーい。かっこ笑い」
「自分でかっこ笑いとか言わないで下さい!」
「あれ、お取り込み中?」

完全にからかわれている…
そう思っていると、後ろの方から時の声がした。慌てて身を引くと、マグを三つ器用に持っている時が首をかしげている。

「ち、ちがっ…」
「うん。そうね」
「じゃ、また後で来るよ」
「違うっ!違いますから行かないでっ!!」

何でしょうね、この漫画にありそうな展開。というか、鴉飛も時も笑ってるから、私をからかって居る事には違い無いのでしょうけれどもっ。
一人でムスッと機嫌悪くしていると、鴉飛が「はい、返してあげるわ」と言って注射器を差し出し、時が「はい、珈琲だよ」といってマグを渡してくれた。
私はそれらを受け取り、鴉飛の横になってるベットの端っこに腰掛ける。

「ね、鴉飛。外行きたいの?」
「うん?そうそう、ちょっと逃げたくて」
「酷いね、こんなに大好きなのに?」
「うわぁ、嬉しい。とでも言うと思ったの?」
「思わなかったよ」

…相変らず、私が入り込む隙も無く、突っ込みどころ満載な会話が紡がれてゆく。
嘘なのか本音の何か、二人の言葉は私にはさっぱり読み取れないが、とにかく二人が楽しそうなことだけは分かった。
とにかく、鴉飛を拾う前の冷たくて真っ暗で、人を人とも思っていないような時とは、今は全然違う。なんというか…ようやく人間らしくなってきたとでも、言うのだろうか。

「あーあ。早く魔王様がこんなヘタレ王子から連れ去ってくれないかしらー」
「そうだねぇ、そうしたらとりあえず俺は僧侶とダンサーと弓矢使いを引き連れて、商人として魔王城に行かないとね。ところで夕飯何食べたい?」
「チゲ鍋」
「……了解」

桜も咲き乱れちゃってる春の陽気。どうしてだか彼女は鍋が好きらしく、拾われた当日も鍋が食べたいとわがまま言ってた。
何故鍋なんだろうと思いながらも、私は突っ込みを放棄したまま珈琲を飲む。

「釈迦如来も食べる?」
「…この時期にチゲ鍋はちょっと…」
「何よ、私のチゲ鍋が飲めないって言うの?!」
「いえ、それはもちろん飲めませんけど」

そもそもチゲ鍋は飲み物じゃないんですから、という突っ込みを無視して、鴉飛が「3人前よろしくー」なんていうものだから、仕方が無いから夕飯までお邪魔することにした。
本当は帰って仕事の続きをしないと、音遠に怒られるのだけれども。
…まぁ、いいか。

「ところで未来輝く青少年。君達、そういえば何歳よ?」
「そういうおねーさんは何歳なのかなぁ」
「創ちゃん、大人の女性に年齢を聞く時は、嘘でも良いから褒めちぎって舞い上がらせて、そのついでという感じに聞くものだよ?」
「うわぁ、鴉飛って髪が長くて綺麗でド派手なワンピースが似合う人はこの世に後五万と居るね。そんな鴉飛が大好きだなぁ、俺」
「25よ」

…思ったより上だったなんて、そんな事を言ったら殴られると思ったら、しっかりと顔に出ていたらしくて殴られた。
25歳…社会人か。というか、そんな社会人がこんな場所で何週間も過ごしていて捜索願とか出されていないのだろうか。…しかし、そう思ったところでそれは無いんだと、思い至った。
捜索願なんてまともなことをされるような人だったら、わざわざ無免許の私に治療を受けるまでも無く、病院に行けば良いのだから。

「で、創ちゃんと咲花ちゃんは?同い年じゃないでしょ?君ら」
「私は17です」
「俺はまだ誕生日来てないから15」

……あぁ、そうか。時ってまだそんな歳でしたっけ…。
喋ってる内容だとかが大人びているというか、偶にお爺ちゃん的発言をしているから、年齢を聞くと凄い違和感がある。
…誕生日、12月ですもんね…。そういう私も誕生日が2月なので、まだ17ですけれども。

「うわ、若っ。おねーさんショック…」

年齢を聞いた鴉飛が、ぐでーっと布団に突っ伏した。その姿が面白くてくすくすと笑っていると、時が「じゃぁ材料買ってくるわ」と、呑み終わってるマグを回収して部屋を出て行った。
部屋に残ってるのは、未だに布団に突っ伏している彼女と、私だけ。

「…そんなにショック受けることでもないでしょう」
「そうよねぇ。…いやいや、でもやっぱりショックだわ…」

笑っているのか、彼女の肩が揺れている。

「…ね、咲花ちゃん」
「だから、ちゃんをつけるな」
「私、何時だったら歩けるかしら?」

ふっ、と顔を上げた彼女の目が真剣だったから、私は思わず言葉に詰まった。
…あぁ、そんなに歩きたいのですか?
こんなにも貴方を想う人が此処に居るというのに。

「……8月の終わりぐらいですかね」
「…そう」

そっけなく呟いた彼女は、「時には内緒よ」って言って、ウィンクをした。
どうして内緒にしなくてはならないのか、この時の私には分からなかったが、

「…だったら偶にはわがまま言わないでくださいよ?」
「それとこれとは話がべつー」

彼女の為に何も時に話さなかったことを、私は今でも悔いている。
所詮、終わってしまった話だけれども。

「鴉飛、早く元気になってくださいよ?」
「はいはい、りょーかいっ」

きっとあの時布団に突っ伏して
彼女は泣いていたんじゃないかって、思った。






夏の終わりに消え行く蝉。
赤い鴉も空に飛び立ち、
後に残るのは静かな秋の始まり。

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俺の前から赤が失われた。




本を読んでいたと思っていたのに、気付いたら回りが真っ暗だった。改めて手元の本を見たけど、文字なんて見えるわけがなくて、俺は不思議に思いながら立ち上がり、電気のスイッチを探る。
今まで座っていた場所がベットだと思うから、大体この辺だろうと中りをつけたところ、ちゃんと指にスイッチが触れた。押すと、目を痛めるほどの明かりが部屋に降り注ぐ。
結局俺は何をやってたんだろうと思い、そこで考えるのを止めた。いつものことだ。
そういえば今が何時なのかも分からない事に気付いて時計を見ると、デジタル時計が示しているのは朝の8時。そういえば今日は何日だろうとカレンダーを見て、…日付は結局分からずじまい。
んんっ、喉痛い。

「あー。…あーっ………よしっ」

叫んだら治った。
…そういえばお腹減ってるかもしれない。最後に食べたのが何時とか、最後に何を食べたのとか、思い出せない。
最期の晩餐なら好きなものを食べなくちゃと思い至ったけれど、そもそも自分が何を好きなのかも分からなくて。
わからないことだらけ。
分かるのは時間だけ。
俺という意味不明な生き物が生きてるという事実だけ。
……散歩行こ…
ポチッとつけたテレビから、カルガモの親子特集が流れて、横目でそれを見ていた俺は、とりあえず風呂に入ることを決めた。
なぜって?
黄色いアヒルちゃんを思い出したからだよ。




「時っ?!」
「あ、久しぶり」

お風呂から上がるとカルガモの親子特集は、単なる平凡な殺人事件のニュースになっていて、つまんねぇって消して服に着替えたら、髪を乾かすのも面倒で直ぐに外に出て行った。
思ったよりも暑くって、
蝉の声が五月蝿くって、
…黙ってくれないかなぁ、と思っていたら見覚えのある顔が寄ってきた。
名前…あぁ、名前…個を主張する名前。
…そうだ、釈迦如来 咲花。
変な名前。

「貴方、1週間も部屋に閉じこもって何やってたんですか?!」
「ナニ」
「下ネタは良いから、黙ってきなさいっ!!!」

怒られた。
本当は雪見大福が食べたかったんだけど、釈迦如来が腕を掴んで話さないからそのまま引きずられてゆく。
うぅん、参ったね。つかまれた腕がとっても暑い。

「釈迦如来ー」
「はい?」
「テレビでねー」
「…テレビ?」
「カルガモの親子特集…」
「…黙ってください」

発言権を剥奪された。どんな国民にだって発言の自由があるのがこの国のモットーじゃなかったっけ?あれ?そうでも無いか。
ともかく、ずるずると引きずられて向かったのは、陰険な雰囲気漂うお寺みたいなところで、砂利道に差し掛かったところで釈迦如来が手を急に離したから、前のめりになって思わず転んだ。
…おぉ、転ぶなんて何年ぶり?

「時」
「痛いんだけどなぁ、釈迦如来。ちょっと手ぇ差し伸べて起こして?」
「彼女の死体を、何処に隠したんですか」
「…?」

なんだろう、いきなりサスペンス?俺が死体隠したと思われているから、俺が被疑者?
釈迦如来は…探偵かな?警察の服装似合わないだろうし。
…あー…それにしても、こういうところって静かだから、尚更蝉が五月蝿くてたまらない。…イライラしちゃったらどうすんのさ。

「隠してないよ?」
「嘘おっしゃい。病院から持ち出したんでしょう?隠蔽するのに私がどれだけ苦労したと…」
「あぁ、ありがと」
「いえいえ。…じゃなくて!」

何処に埋葬したんだ、とか、まさか家の中にまだあるのか、とか、いろんなことを釈迦如来が喚いた。蝉の声みたいに五月蝿かったから、俺は聞かないフリをして空を仰ぐ。
…そういえば釈迦如来が制服を着てるってことは、今日は平日?
あれ、でも夏休みじゃないのかな?

「聞いてます?!」
「流してます」
「……っ…もぉっ!」

苛立たしげに地団太を踏む釈迦如来に、「暑いからイライラするんじゃない?」って言おうとして止めた。きっとまた怒るだろうし。

「…埋めたよ、ちゃんと」
「だから、何処に?!」
「ひみつっ」
「………。あぁもう、人の心配をよそに……まったく…」

今度は盛大なため息。思わず幸せ逃げるよ?って言ったら、結局怒られた。…全く、釈迦如来は怒りっぽいんだから。
ともかく、こんな暑いのに外に居るのは嫌だから、早く雪見大福を買って帰ろうと、釈迦如来に背を向ける。

「…また、引きこもるつもりですか?」
「あと、2日ぐらいしたら出るよ」

それで整理が付けば良いけど、
釈迦如来に公言しちゃったからには頑張ろうと思った。




「鴉飛、大好きだよ。愛してるよ」

真っ赤なドレスに真っ赤なルージュ。
真っ赤尽くめの彼女の肌は真っ白。

「うぁ…それ、嫌がらせね?気持ち悪っ」
「あ、ばれた?」

甘い甘い香り。
柔らかい質感。
赤が大好きな君。
赤に囚われた俺。

「…創」
「うん?」
「殴らせて」
「嫌かな」

俺の前から飛び立った鴉は
真っ黒じゃなくて真っ赤だった。

ばいばい、鴉飛<あと>

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